ダイナミックプライシングとは何か?代表的な実装方法の紹介

ダイナミックプライシングとは何か?代表的な実装方法の紹介


あけましておめでとうございます。
本年1発目の投稿は、ダイナミックプライシング(dynamic pricing)についてです。
最近、ダイナミックプライシングに関する案件を担当することになったので、いろいろと勉強しています。
ただ、日本語でダイナミックプライシングを詳しく説明しているサイトや参考書籍はほとんど見つかりません。
論文や英語記事を読み漁るしか現時点でダイナミックプライシングを学ぶ術がないのです(もしくは、その業界に人にヒアリングするとか)。
そこで、筆者がダイナミックプライシングについて今まで調べてきた内容をざっくりまとめようと思います。
この記事がダイナミックプライシングを理解する一助になればと思います。

ダイナミックプラシングとは何か

ダイナミックプライシング(dynamic pricing)とは、需要と供給のバランスに応じてリアルタイムに価格を設定することです。
身近な例だと、飛行機のチケットやホテルなどの宿泊施設の価格設定に使われています。
搭乗日よりもかなり前(需要が少ないとき)に予約するとチケット代が安く、搭乗日間近(需要が大きいとき)になって予約するとチケット代が高くなるという経験が1度はあると思いますが、これはダイナミックプライシングによるものなのです。
一方、いつ買っても同じ価格のもの(例えば、事務用品や書籍など)に関してはダイナミックプライシングは使われていません。
ダイナミックプライシングが適用できるのは次の条件を満たす商品です。

  • 在庫が稀少であること
  • ある期間内でのみ価値を発揮すること

上記の条件を満たす商品にダイナミックプライシングを使うと需要に応じて価格を設定できるため理論的には収益を最大化できるのです

なぜ今になって脚光を浴びてきたのか

ダイナミックプライシングは目新しい概念ではなく従来より使われている手法ですが、近年、ヤフオクドームでプロ野球のチケット価格に適用されるなど徐々に注目され始めてきました。
高くても顧客が納得する価格を弾き出す

ダイナミックプライシングが注目され始めた理由は次の3つでしょう。

  • ビッグデータの蓄積
  • AI技術の発達
  • RPAの概念の普及

従来からダイナミックプライシングを活用しノウハウを蓄積している航空会社を除いて、ほとんどのホテル業界やイベント関連企業では過去の限られたデータを頼りに人の手作業で価格を設定しています。
航空会社で当たり前のようにダイナミックプライシングが活用されていても、業界そのものが違うと様々な条件が変わってしまうためにノウハウが横展開されないのです。
とは言うものの、人力での価格設定は工数がかかり過ぎたり、勘による価格設定が利益を最大化する最適価格であるとは限りません。
そんな中、ビッグデータ基盤技術の発展によって予約サイトや自社サイトのログ情報や、SNSを通じて突発的な需要の変化を容易に収集できるようになりました。
また、AI技術の発達により従来人の手では扱いきれなかったデータを分析できるようになったため、より確度の高い需要予測が可能になりました。
さらにRPAの考え方が普及することで、データ収集、最適価格の算出、各種サイトへの価格の反映といった一連のプロセスを自動化しようという流れができました。
このように種々の技術基盤の整備が進み、AI・RPA活用の機運が高まったことが、航空業界以外でもダイナミックプライシングが注目され始めた理由だと感じています。

代表的な実装方法の紹介

では、ダイナミックプライシングを実装するにはどういったアイディアが必要なのでしょうか?
ここからは代表的な3つのダイナミックプライシングの実装手法を説明します。

コスト上乗せ手法

製品あたりのコストにマージンを加え、必ず利益ができるように価格を設定する方法です。
容易に実装できることがメリットですが、外部要因を一切見ずに内部要因しか考慮できないことがデメリットになります。

例(コンサートのチケット価格)

コンサートの開催に必要な費用:\(C\)
上乗せしたいマージン:\(M\)
販売数:\(S\)
このとき設定価格\(P\)を次のように算出します。
$$ P = (C+M)/S $$

いたってシンプルな手法ですが販売数\(S\)が想定通りに達成される保証はありません。
仮に\(S\)枚チケットが売れたとしても、開催日までにある程度のリードタイムを残すようであればもっと価格を押し上げられる余地があります。

競合基準手法

競合が提示している価格を基準に商品の価格を設定する方法です。
コスト上乗せ手法とは異なり外部要因を考慮できることがメリットですが、競合の提示価格を常に正としているために競合の提示価格が誤っていた場合は自社も損失を被ることがデメリットになります。

例(ある宿泊日の1人あたりのホテル宿泊価格)

競合価格:\(P_1,P_2,\dots (i \in \{ホテル集合\}, \, P_1 > P_2 > \dots) \)
$$ P = mean(P_1 + P_2) $$

上記の例では、競合の価格を参照し、1番目に高い価格と2番目に高い価格の平均値を価格に設定しています。
これも競合の価格を収集できる基盤がある場合、かなりシンプルな実装になります。

価値基準手法

需要と供給をバランスして価格を設定する方法です。
内部要因、外部要因ともに考慮できることがメリットですが、実装が困難なことがデメリットになります。

例(ある搭乗日の飛行機のチケット代)

予約日から搭乗日までのリードタイム(day):\(L\)
供給・在庫比率:\(r\)
基準設定価格:\(P_{basis}\)
需要価格:\(P_{demand} = P_{basis} \times (1+1/L)\)
$$
P = \left\{
\begin{array}{ll}
P_{demand} \times (1 + (r-0.7)) & if \, r > 0.7\\
P_{demand} \times (1 + 1/L)/2 & else
\end{array}
\right\}
$$
かなり適当に例を作ってしまいました笑
実際にはいろいろな変数を考慮して需要を予測し、利益が出るような最適価格を算出するロジックを組む必要があります。
実装は一筋縄ではいきませんが、ロジックの組み方次第で最適価格の算出が可能になります。