『組織は「言葉」から変わる。ストーリーでわかるエンゲージメント入門』を読んだ感想

『組織は「言葉」から変わる。ストーリーでわかるエンゲージメント入門』を読んだ感想

最近、とある事情で全社の「エンゲージメント」の向上を支援する仕事に関わりはじめました。

そもそも「エンゲージメント」という言葉自体は何度か耳にしたことはありましたが、それが具体的に何を意味しているのかはさっぱり分かりませんでした。
ということで、まずは簡単に概要を掴めそうな本を読んでみようということで本書を選びました。

本書では、「エンゲージメント」を高めるための「インナーブランディング」を組織に導入していく過程をストーリー形式で説明しています。
以前読んだ、『OKR』の本と似た構成です。

主人公が自分の会社に抱えるモヤモヤ感やそれを何とかしたいという気持ち、「インナーブランディング」を推進していく中での人との衝突など、かなりリアルな物語になっています。
物語が軽快に進んでいくので、半日集中して読めば読破できてしまいます。
以下、簡単に本書を読んだ所感をまとめます。

エンゲージメントとは何か

本書ではエンゲージメントを簡潔に一言で表しています。

エンゲージメントとは、一言で表すと、「誰か・何かに貢献しようとする志」のことです。

また、この貢献対象が「誰か・何か」によって、エンゲージメントの呼ばれ方は変わります。
例えば会社のために貢献しようという意欲を測るのはコーポレート・エンゲージメント、所属するチームのために貢献しようとする意欲を測るのはチーム・エンゲージメントと呼ばれます。

エンゲージメントという言葉が登場する前は、従業員満足度(ES: Employee Satisfaction)を徹底的に追求した時代がありました。
しかしながら、ESを追求した企業が経営破綻したため、ESが経営に寄与する重要性な指標なのか疑問符が出てきました。
こういった中で経営に寄与する指標の1つとして注目されたものがエンゲージメントです。

ちなみに、本書のストーリーの中では、イチローさんを例にあげてエンゲージメントの説明をしていました。

インナーブランディングを推進するために必要な3ステップ

インナーブランディングとは、エンゲージメントを高めるために欠かせない取り組みのことです。
一般的にブランディングといえば顧客や株主に対して企業らしさを認識させることですが、インナーブランディングでは従業員に対して企業らしさを認識させるためのコミュニケーション活動全般を行います。
インナーブランディングには言葉づくり、浸透活動、相互理解の3ステップが必要になります。

言葉づくり

言葉づくりのステップでは、独りよがりではなく、組織の未来を担う人材の総意を出来る限り取りながら、かつ、全体がワクワクするような言葉を掲げます。
具体的には言葉は以下の7つに分類でききます。

  • 現状(外部・内部の環境)
  • なりたい姿
  • 社会に提供する価値
  • 顧客に約束する提供価値
  • 戦略、戦術
  • 大切にしたい価値観、文化、強み

ここで、ナレッジマネジメントの文脈で言われるビジョンはなりたい姿ミッションは社会に提供する価値バリューは大切にしたい価値観、文化、強みにそれぞれ該当します。
この言葉作りのステップにおいて特に大事なことは、力強く明確に言葉を定義することと、組織の中枢にいる未来を担う人材の意見もしっかりふまえて言葉を作っていくことなのだそうです。

浸透活動

言葉をつくった後は、その言葉を全社に浸透させるきっかけと仕組みを作ります。
この仕組み作りにおいては、ファンクショナルな施策とエモーショナルな施策の両輪を揃えることで、経営メッセージの浸透スピードや浸透度が高まるのだそうです。

ここで、ファンクショナルな施策とは、周年イベントやキックフ、あるいは表彰や研修といった会社にすでに組み込まれている仕組みの一環として社員にメッセージを伝えることを指します。
筆者曰く、インナーブランディングに着手する際に、多くの企業がファンクショナルな施策だけを設計しがちなのだとか。

一方、エモーショナルな施策は従業員の主体的な理解・共感を促すものを指します。
例えば企業理念を体現している従業員のエピソードを動画で紹介し、共感を誘うなど、理念に関わる物語をクリエイティブに落とし込むなど。
特に経営メッセージを作った初期段階ではエモーショナルな伝え方をする工夫が重要なのだそうです。

相互理解

言葉の浸透活動によって、行動に移した人の個人知を組織知に変えていきます。
このステップではナレッジ・マネジメントのフレームワークであるSECIモデルを活用します。
SECIモデルは組織の決まり事に対する新しい気づきを得た個人が、その気づきを組織にフィードバックして、新たな決まりごとをつくるサイクルを定義しています。
SECIモデルを活用するにあたっては、特に内面化によって得られた暗黙知を共同化、表出化するように促すことが重要とのことです。

  • 共同化
    普段思っていることをぶつけ合う(例:合宿や議論の場を与える)
  • 表出化
    表彰式などで優秀な取り組みを紹介する、ロールモデルを紹介する映像や冊子

組織の存在意義を定義すると組織が成長する

本書では、組織が衰退せずに成長を続けていくためには、WHY(組織の存在意義)を突き詰めて考え抜いて言語化することが必要だと述べています。
衰退期に入っても既存ビジネスから脱却できないような硬直化した組織を撃ち壊すためには、全ての最上位に「そもそも何のためなのか」を定義しておく必要があります。

このようなWHYについいて突き詰めて議論を繰り返すことは、時としてに組織の決まり事を見直す機会に繋がります、
さらに、WHYを言語化することでビジネス上の判断を間違わない、不祥事を起こすこともなく、人を引きつけるエネルギーにもなります。
このように、組織の存在意義(WHY)を定義することで、組織は成長します。

最後に

タイトルにもある通り、エンゲージメントを高めるためのインナーブランディングの第一歩は「言葉」づくりが重要なのだなと理解できました。
作った言葉の浸透活動においてはファンクショナルな施策しか打てていない企業が多いというのは、自分としても実感できることだと思いました。
本書で述べられているように、カスタマージャーニーマップならぬエンプロイージャーニーマップを描き、「何かを企画を実施する」ことではなく「その後にどんな雰囲気になって欲しいかまで考えて導く」ということを忘れてはいけないなぁと思いました。